2024年度一般会務報告⑥

タクシー事業の労務管理マニュアル

タクシー運転手の賃金体系の構造と特徴・問題点

 タクシー運転者の賃金体系は、地域や個人の事業者にとって分類方法が必ずしも統一されていない現状にあるが、大別すると基本形態であるA型賃金とオール歩合給型賃金形態の二つに区分される。
 オール歩合型賃金形態には、オール歩合、B型、AB型などに分類することができるが、B型、AB型の境界はそれぞれにおいて見解が異なっている。また、違法性の高いリース制賃金も現存している。

1.A型

 一般産業と同様の賃金形態で、月例賃金に臨時給、退職金制度を併せもつ。勤続給が取り入れられているものの一般産業に比べてその水準は低い。

(1)構造

月例賃金=基本給+勤続給+諸手当+歩合給+深夜・時間外割増給
 臨時給=業績に応じ、総原資・配分を労使交渉
 退職金

(2)特徴と問題点

 他の賃金体系と比較し固定給部分が比較的しっかりしている。
 歩合給依存度が高いため金額的には低い。また勤続給も極めて低い。
 希に採用される「歩合足切」未到達者に対する減額措置や一律〇〇%といった賃金カーブに非連続が生じる制度は「自動車運転者労務改善基準」で禁止する「累進歩合制」に相当する。

2.オール歩合制賃金

 タクシー事業創成期における原始的賃金形態。営業収入に対して、すべて歩合給とした賃金制度である。営業収入の多寡により段階的に支給率を変える累進歩合制が導入されているケースも少なくはない。臨時給、退職金はなく、勤続加給もない。また、派遣運転者に対して、年次有給休暇付与に係る原資をも込みこみで賃金支給率が決められるケースもある。

(1)構造

賃金=営収×〇〇%

(2)特徴と問題点

  • 保障された賃金がない
     最低賃金法に抵触の恐れ、自動車運転者労務改善基準・保障給の規定に違背。
  • 累進歩合制度の導入
     自動車運転者労務改善基準に違背
  • 有給休暇の保障がない
     自動車運転者労務改善基準に違背

上記の観点から厚生労働省が指導、姿を消しつつある。

3.B型賃金

 臨時給、退職金原資込みの賃金をいうが、オール歩合賃金ベースに賃金総額を仕分けし、基本給、諸手当、歩合給、割増賃金等に体系整備することから派生したものとA型賃金から月例賃金部門を大きくするため、臨時給、退職金等の原資を月例賃金に組み込んだものとある。いずれも、営業収入の多寡により、賃金支給率が決定し賃金内訳は変化する。実質勤続給はない。
 過去に、臨時給部分を高額(高率)に設定し、貸付、仮払い等の名目で毎月精算し、社会保険等の等級を操作するなど不正な処理が行われたこともあった。臨時の給与との認定には、厚生労働省が年3回以内なら合法との判断を示しており、4か月ごとに精算するスタイルも派生した。事業者の中には、こうした臨時給分離型のB型を「AB型」と称するむきもある。

(1)構造

賃金=営収×〇〇%
  =(基本給+勤続給+諸手当+歩合給+割増賃金)+臨時給+調整給

(2)特徴と問題点

  • 保障された賃金がない
     最低賃金法に抵触の恐れ、自動車運転者労務改善基準・保障給の規定に違背
  • 累進歩合制度の導入
     自動車運転者労務改善基準に違背
  • 有給休暇の保障がない
     自動車運転者労務改善基準に違背

一定額以下の営収では社会保険料等運転者の持ち出しの可能性がある。

4.AB型賃金

 A型とB型の中間に位置する形態。B型で規定した一定率にプラスした勤続給・諸手当・退職金制度を併せ持つもの。また、A型でありながら臨時給を営業収入によって基準設定しトータルでは一定の支給率で賃金が決まる方式に移行したもの等、その内容は多岐にわたる。勤続給を設けることは多いが配分率に包含されているケースもある。B型との特徴的相違点は、属人ごとに、同営収であっても、定率にプラスされる金額に相違がある点である。N型・D型などと呼称される賃金制度もAB型に分類される。

(1)構造

月例賃金=営収×〇〇%+勤続給 等
 臨時給=営収×〇〇%
 退職金=ない場合もある

(2)特徴と問題点

 調整給の存在は、事実上オール歩合的制度といえる
 勤続給や退職金制度を持たないケース、また、賃金項目上採用されていても分配率に包含されるなどの事実上、属人ごとの差異がないケースもある
 累進歩合制の導入も散見される
 B型に近い制度からA型に近い制度まであり、A型に近いものは検討の余地がある

5.リース制賃金

 基本的には、一般管理費および一定利潤を固定し、運行経費(償却、燃料費等)や社会保険料の事業者負担分を合わせ、経営減価を事業者が先取りするシステム。営業収入からこれらを差引いた残額が賃金になる。MKなどのシステムでは運賃改定時のメーター交換費用・制服等も運転者の負担となっている。

(1)構造

月賃金=営収-(固定経費+変動経費+企業利益)

(2)特徴と問題点

  • 保障された賃金がない
     最低賃金法に抵触の恐れ、自動車運転者労務改善基準・保障給の規定に違背。
  • 有給休暇の保障がない
     自動車運転者労務改善基準に違背
  • 一定額以下の営収では社会保険料等運転者の持ち出しが生じる
     一定額以上の営収になると、ほぼ全額(燃料費等・変動経費は発生する)が運転者の収入となるため、労働時間法制等違法行為を誘発する。その結果、過労運転から重大事故発生を引き起こす危険性、また、乗客とのトラブル等を引き起こす危険性をうむ。

事実上の請負労働。現行、道路運送法は第33条で「請負制」を「名義貸し」行為として禁止している

乗務員の賃金と賃金体系の分類と概要

 タクシー事業の営業形態には殆んど差がないにもかかわらず、各社の賃金制度は、その考え方も、決め方もそれぞれ違っています。
 特に基幹職種のである乗務員の賃金制度は、その労働時間の大部分が事業外労働であり、経営側がこれを直接管理監督することが物理的に不可能であること、また、労働の密度や効率によっても生産性に個人差が大きいことから、乗務員の賃金には歩合給(業績給)が取り入れられ、これが賃金制度の中で大きなウェイトを占めているのが特徴です。乗務員の賃金体系をみますと、大別してA型賃金、B型賃金、AB型賃金、単純オール歩合制賃金、リース制(運収還元制)賃金に分類されています。
 これらの賃金体系は業界内で一般的に呼称されているもので、具体的な定義づけが成されているものではありません。例えばA型賃金は、全国的に呼称されていますがB型賃金、AB型賃金が東京を中心とした関東圏ではその呼称が定着しています。

1.A型賃金

 固定給は、退職金規定の基礎となる固定給(基本給、基礎給等)部分、従事する職務によって支給される固定給(職務給等)部分、勤続年数によって加算される年功給的な固定給(勤続給等)部分とに分けられています。歩合給は、一定の足切り額が設定され、これを超える営業収入に対して一定の歩合率を乗じて歩合給が計算されます。

(例)賃金額=固定給+(月間営収額-足切り額)×歩合率
(因みに歩合率は40%~50%程度が多くみられる。)

 バブル崩壊からの不況で、多くの事業者は、労使交渉により、A型賃金からB型賃金、AB型賃金、さらに完全歩合給制へと移行が進んだものです。東京では、現在、80%近くの事業者が何らかの形でB型を採用している。

2.B型賃金

 A型賃金の賞与・一時金を廃止し、その分、月割りにして月例賃金に含めて支給する賃金体系です。

3.AB型賃金

 B型賃金から移行したものと、最近ではA型賃金から移行したものとがある。特に、社会保険料の負担が労使とも大きくなるため、B型賃金からAB型賃金に移行することが多い。(1995年、平成7年から賞与の一部についても社会保険料が徴収されることになり、更に2003年、平成15年4月から、月例給与と賞与と同率の社会保険料を負担させられ、B型賃金から社会保険料を軽減するメリットがなくなった。)
 月例賃金は、基本的に月間営収額に一定の賃率を乗じたオール歩合的賃金ですが、賃金の支給項目はA型賃金のように固定給部分と歩合給部分、割増賃金部分等で構成されている。

4.単純オール歩合制賃金

 月例賃金がすべて歩合給のみの賃金形態であり、営収額に一定の歩合率を乗じて算出する。歩率については、営業収入の多寡により段階的に歩率を設定しているものもある。

5.リース製賃金

 大阪、京都等関西方面に導入例があるが、全国的に普及している賃金体系ではない。
 このような多様な賃金体系は、一長一短を持ちながら、それぞれの時代における経営者、乗務員及び労働組合の意向を反映しつつ定着してきた。ここにきて、乗務員数の減少と、高年齢乗務員の比率の増、働く者のニーズの多様化という経営環境の変化を背景として、これからのタクシーの賃金体系はどういった方向で進めばよいか、それぞれの地域事情を踏まえて様々な対応を模索していく。

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